2011年6月6日月曜日

お客様の「目的達成ストーリー」を売る

 営業成果は、量×質、掛け算で表されます。
 横軸に商談数(量)をとり、横軸に営業の受注確率(質)をとると、営業の成果はその積、つまり面積で表すことができます。営業の成果を大きくしたければ、一商談当たりの受注確率を高めるか、同じ受注確率であれば、商談数を増やすことです。

 営業成果を最大化するためには、限られた時間を効率的な活動で量を増やすか、限られた商談を有効性ある活動で着実に決めていく、という方法の掛け合わせが必要です。以上を意識して、営業成果を最大化するための、基本編から応用編に展開する「営業力5段階強化法」を説明していきます。

【STEP1:効率的に活動量を増やす】

 まず最初に手がけるのは、効率的な営業のための営業計画です。

 「計画が苦手な営業マンに優秀な営業マンはいない」と言われます。行き当たりばったりの営業、お客様に振り回されている営業、その日の朝になってアポを取っている営業、達成シナリオもなく積み上げている営業マンに、業績が常に上位の営業マンはいません。

 ほとんどの業種の営業活動は、3カ月で「営業戦略」、1カ月で「営業戦術」、週間単位で「行動計画」を組み立てます。重要なアポを取るのは、その週ではなく2週間前からアプローチすれば、先方の予定が詰まっていない段階で、こちらのペースで計画が立てられ、準備も余裕ができ、活動効率が上がります。

 次は、実営業時間を増やすことです。すべての受注はお客様との接点である実営業時間(電話、メール含む)から生まれます。私が調べてきた実営業時間の平均は、25%くらいです。10時間働いているとしたら150分です。中身を商談内容だけに絞ると、もっと少なくなるでしょう。実は移動時間が全体の30%に及びます。

 効果的な対策は2つ。毎日の実営業時間を20%、30分増やす努力をすること(理論的には成果も2割増えるはず)。もう1つは、できるだけ自分が訪問しなくても商談が進む方法を考えること。

 矛盾するようですが、訪問するということは移動時間も消費します。必要事項はメールや郵送で済ませ、訪問する以上は、準備を十分に整え、中身の濃い複数の要件をこなす努力をするべきです。訪問しているから営業している気になるのは、間違いです。お客様の時間も消費しているからです。有効性ある実営業時間が成果に結び付くからです。

【STEP2:強化すべき顧客を明確にする】

 営業戦略は集中することです。どの商品に集中するか、どのお客さまに集中するか、ランチェスター戦略でも常識になっている通り、密度が成果を生みます。訪問しやすいお客様を選んではいけません。売り上げをアップするためにこちらが重要なお客様は、相手にとっては重要でない場合が多いです。有効性ある重要顧客を営業計画の中で明確にすべきです。

 80:20の法則にあるように、上位20%のお客様で売上の80%が決まっている。この上位20%のお客様をどのように選ぶか。「ABC分析」での現在の上位顧客と将来のために育てる「深耕顧客」が含まれているはずです。

 私は3カ月に1回、顧客分類を行い、格付けを変えて、優先順位や訪問頻度を変えていました。営業は狩猟型で刈り取るべき活動と、農耕型でじっくり育てるべき活動があります。優秀な営業マンはその見極めが鋭く、長期にわたりお客様との関係を温めたり、ここぞという時にお客様の近くにいたりします。こういう目利きを持ち、懐が深い営業マンが安定的な業績を上げ続けます。

【STEP3:顧客ニーズを把握する】

 初期の段階で営業マンの価値を決めるのは何か。差別化、付加価値を生む、お客さまからの期待値を決めるものは何か——。それは情報です。

 情報の切り口はいくらでもあります。まずはお客様の個人情報、会社情報、業界情報、お客様の顧客情報、競合の情報(実に重要です)、我々の商品情報など、顧客情報ファイルなどに定型化されているでしょうか。ヒアリングシートが用意されているからといって、一からお客さまに聞き出したら、ダメ営業マンの烙印を押されます。大切なのは、いかに事前情報を集めるか、その情報をもとに仮説を立てられるか、お客様の欲しい情報を準備できるかです。

 私がリクルート営業マン時代、「訪問する時には手ぶらで行ってはいけない」という原則がありました。「お土産」を持つ。これはモノではありません。お客様の関心を引きつける情報のお土産です。「今日のお土産は何?」が営業同行する時の決まり文句でした。情報武装で営業マンの戦闘力が決まるのです。

 次の段階で、顧客ニーズを把握します。顧客ニーズは2つあります。顕在ニーズと潜在ニーズ。顕在ニーズは既に表面化しており、求める商品サービス、企画・仕様も明確になっています。この局面では提案の余地も少なく、差別化しづらい状態です。相見積もりで安いところに流れるという利益が生まれない商売になります。ですから、まだ表面化していない、潜在需要・欲求の段階でのニーズに対応することが有効性の高い営業です。

 顕在ニーズは質問すれば具体的に知ることができますが、この情報は競合と差別化できません。お客様の胸の内にある、まだ解決方法が具体的でない状態で、推測して、仮説を立てて打診していきます。この段階で共有できれば、同じ目的を持って、ともに課題解決するパートナーとなるでしょう。真の利益は顕在ニーズではなく、潜在ニーズを満たした時に生まれるのです。

【STEP4:企画力・提案力を高める】

 提案力の源泉は何か。プレゼンテーションスキルでしょうか、商品説明力でしょうか、お分かりだと思います。顧客理解力です。提案力の評価の中核は「的を射た企画」です。

 では、的を射るためには、どうしたらよいでしょうか。そうです、前ステップでお伝えした情報収集が最大のカギです。その適切な質と量の情報を基に企画を考える際、最も重要なアプローチは「目的から入ること」です。セリングポイント=売り方ではなく、バイイングポイント=買う理由が重要なのです。

 何が目的なのか、何を満たすためのニーズなのか、結果として何を得たいのか。お客様は商品が欲しいのではないのです。商品を得た結果の課題解決、満足感、使いやすさ、便利さ、かっこ良さ、優越感、などなど。商品はそのことを満たすための手段に過ぎません。すなわち、目的を達成するためなら、提供する商品とは異なる提案でも聞いてくれるはずです。時には、予算などあってない場合があります。より大きな満足が得られるなら、予算は投資に変わり、楽しい買い物になるのです。

 従って、営業マンは「商品説明をしてはいけません」。商品の利点や優れている点、一般論ではなく、お客さまにとっての利益、すなわち目的が達成するイメージを強く印象付けるのです。

 これを事例営業と言います。営業している商品サービスの効能を使用現場のリアリティある表現ができる営業は強いです。商品サービスを売るのではなく、「お客様の目的達成のストーリー」を売るのが有効です。そうすると金銭的価値や機能的価値を超えて、情緒的価値まで付加価値となって、買っていただけます。

【STEP5:お客様との関係を強化する】

 「お客様の目的達成のストーリー」を売っているあなたは、そのお客様の喜びを共有しているでしょうか。

 営業マンは売ることが目的になりがちで、契約を結ぶと関心が薄れますが、お客様が満足するのは買った時ではなく、納品され、実際に使用して期待以上であった時に満足します。お客様と長い関係を持って、囲い込むビジネス、リピートや紹介でつないでいくビジネスなどは、目的達成をお客様と共に喜ぶスタンスかどうかが、お客様との関係性、継続性、業績維持に大きく影響し、そこに着目することが長い目では効率的なのです。

 お客様と強い信頼関係を結んでいくためには、売るためにお客様をファンにするのではなく、まずあなた自身がお客様のファンになって、喜びを共有するのです。そうすることで、本当のお客様の立場に立った仮説や提案が浮かんでくるものです。

 そういう関係作りが、業者をパートナーへと発展させていく力になります。最後に業者とパートナーの違いを考えてみましょう。


 営業マンとしての価値でもあり、楽しさでもあるのが、「お客様のお役に立って、喜んでいただけること」。やはり仕事をしている以上、売り上げも重要ですが、自分の存在感を示せる、個人として認めてもらえる営業マンになりたいと願うでしょう。

 あなたの部下である営業マンはお客様からどのレベルを期待されているでしょうか。実は、その期待はお客様が決めるのではなく、営業マンのスタンスが決めるのです。営業マンはお客様から「格付け」されています。どの程度、期待してよい営業マンか、値踏みされていることを忘れてはいけません。

 お客様が本当に悩んでいる課題は何でしょうか。お客様をよく観察し、自ら広く情報収集し、仮説を立てて、お客様にぶつけてみる。課題解決力を高めていく。真剣に考え抜いた提案なら、衝突しても主張すべきです。営業マンの考える深さに応じて、お客様も深い話を戻してくれます。お客様を絞り込んで、パートナーとなるべきお客様を創ってください。営業リーダーの方は部下と一緒に考え、貴重な経験を体験させてください。その経験の積み重ねが、競合と差別化された、どこでも通用するプロフェッショナル営業マンを育成していくことになるのです。

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