2011年6月7日火曜日

クラウドの本質は「規模の経済」

企業が現在、クラウドに寄せる期待として最も大きいのはコスト削減です。仮に「ITの所有から利用へ」を実現したところで、ITコストの削減が期待できないのであれば、ここまでクラウドが注目されることはなかったのではないでしょうか。

 

Amazon EC2」の場合、1時間当たり、日本円にして10円を切る料金で仮想サーバーが利用できますし、追いかける国産プロバイダーもAmazon EC2に近い料金でサービスの提供を開始しています。私は、この利用料金の安さこそが、これまでの類似サービスとは違う、クラウドの本質ではないかと思っています。

 

低料金を実現できる理由としては、以前と比較して、サーバーの価格性能比が劇的に向上したことやハードディスクなどストレージの料金が大きく下がったことが挙げられます。しかし、一番大きいのは、サービスの提供者側で「規模の経済」が働くようになったことです。これには、さまざまな要因があります。

 

技術的には仮想化技術の登場によって、複数ユーザーが一つのシステムを共有するマルチテナント化が可能となったことが大きな要因です。以前は1ユーザーが1台の物理サーバーを専有していたのに対して、仮想化技術を使えば、1台の物理サーバーを論理的に複数のサーバーに分割して使うことができます。物理サーバーのスペックにもよりますが、現在では1台の物理サーバーを2台〜10台程度の仮想サーバーに分割し、複数ユーザーで利用することが可能です。

 

また、サーバーなどの運用管理にも規模の経済は働きます。例えば、マイクロソフトでは、1人のサーバー管理者が5,000 台ものサーバーの管理を行っているといいます。サーバーを1カ所に集約し、それを少ない人数で集中して管理するようにすれば、運用管理効率は格段に向上するというわけです。

 

ビジネス的な面では、(1)ボリュームディスカウントが適用されるように、大量のサーバーやストレージを一括調達し、調達コストを下げる (2)グローバルでビジネスを展開する事業者の場合、世界各地の時差を活用し、サーバーの利用率を平準化する──ということを行っています。

 

2)については、例えば、クラウド利用のピークタイムが10時〜17時だとした場合、仮に日米で同じサーバーを使用しているとすると、時差のある日本と米国ではピークタイムがずれることになります。このため、サーバーが使用されずに遊んでいる時間がほとんどなくなり、サーバーの効率的な利用が可能となります。

 

こうした規模の経済によって得られる収益率の向上は、ユーザーの利用料金に反映されます。現在のクラウドサービスの料金が以前に比べて非常に安価になったのは、規模の経済の威力を端的に示すものだといえるでしょう。

 

では、誰でも利用可能なパブリック・クラウドに対して、利用者を自社内、あるいは自社のグループ企業内の社員に限定したプライベート・クラウドの場合はどうでしょうか。プライベート・クラウドを、パブリック・クラウドの規模を縮小したものと考えれば、当然、得られるスケールメリットはパブリック・クラウドにかないません。しかし、従来、各部門単位など個別にサーバーを用意していた場合に比べれば、全社でサーバーのリソースを共有するプライベート・クラウドは、やはり規模の経済が働き、コスト面でのメリットが出てきます。

 

このように、クラウドには数多くのメリットがありますが、もちろん万能ではありません。後編では、現在指摘されているクラウドの主な課題を整理するとともに、企業が利用する際の留意点などをまとめていきます。

 

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