2011年6月7日火曜日

クラウドならではの用途の探求

昨年あたりから本格的に「クラウドをどのように自社で活用するか」といった「クラウド戦略」の策定に着手した企業が多くなってきていますが、そうした企業の多くは、ハードウェアやソフトウェア、維持管理などを含めた「コスト削減」を目的にしています。

クラウドの本質が「規模の経済」にあることを考えれば、クラウド活用の第一歩として、コスト削減を目的としてきたのは自然な流れだと思います。企業経営の立場からすれば、リーマンショック以降の景気の落ち込みもあり、コスト削減の切り札として、クラウドに期待した部分も多分にあったのでしょう。企業の方から私に寄せられた相談を見ても、「クラウドを上手に活用すれば、コスト削減につながるのではないか」という期待から、トップダウンでクラウドの導入を検討し始めた企業が多かったように思います。

しかし、クラウド活用の第一歩がコスト削減だとすると、そろそろ次の一手として、「クラウドならではの使い方」や「クラウドを使うことで劇的な生産性の向上につながるような用途」を考える時期に差し掛かってきたのではないかと思っています。

具体的には、スマートフォンやタブレット端末などのモバイルとクラウドの連携、あるいは複数のサーバーを用いた大規模データの分散並列処理などです。

まず、前者のモバイルとクラウドですが、これは非常に親和性が高い組み合わせです。既に、クラウドの導入を契機に、スマートフォンやタブレット端末を導入し、社員のワークスタイルの革新を実現しようという企業が出てきています。

例えば、中古車売買大手のガリバー・インターナショナルでは、Google Appsの全社導入に加えて、iPhone、iPadの導入も進めています。同社では、従来、外出先の営業担当者がメールをチェックするには、店舗に戻るしかありませんでした。しかし、現在ではiPhoneやiPadを使うことで、どこにいてもクラウド上のメールをチェックし、顧客サービスの向上を図るとともに、時間を有効に活用するというワークスタイルへの転換をめざしています。これと同時に、顧客先を訪問する営業担当者はiPadに中古車画像を表示し、販促活動にも役立てています。ノートPCよりも起動が早いiPadを使うことで、スムーズな提案活動が可能になったということです。

一方、後者の複数のサーバーを活用した分散並列処理の活用事例としては、日本最大の料理レシピ検索サイトである「クックパッド」が有名です。同社では、ユーザーが料理レシピの検索のために入力したキーワードの検索ログの解析にクラウドを活用していますが、解析対象としているのは1年分のログであり、そのデータ量は膨大です。このため、社内のデータベースサーバーを利用して、この処理を実行した場合、7,000時間はかかると見積もられました。しかし、クラウドを活用し、50台のサーバーを同時に立ち上げ、分散処理のフレームワークである「Hadoop(ハドゥープ)」を利用したところ、わずか30時間足らずで処理が完了したということです。このHadoopとは、簡単にいえば1台のサーバーでは時間のかかる処理を、複数のサーバーで分散して処理させることで、高速化を図ろうとするコンセプトに基づき設計されたソフトウェアです。

このように、いち早くクラウドの活用を始めた企業の中には、コスト削減に加えて、クラウドの特性を生かしたメリットを享受している企業も出てきています。日本では、クラウドというとコスト削減というメリットに目が行きがちですが、クラウドの活用で先を行く米国の場合は、コスト削減だけではなく、この分散処理のようなクラウドの特性を生かしたメリットにも注目が集まっています。

「クラウドに期待するメリット」を聞いた米国企業を対象に実施したアンケート調査結果と日本企業を対象に実施した調査結果を比較すると、「サーバーやストレージなどを運用管理する負荷軽減」「サーバーやストレージなどのハードウェアのコスト削減」が上位2位である点は変わりません。しかし、日本に比べると、米国ではややその比率は下がっています。また、日米の大きな違いとして、日本では6.4%でしかなかった「大規模なIT リソースを活用した分散処理」が米国では18.1%と3倍近くも多く支持されている点が挙げられます。

この分散処理は、先に説明したクックパッドのようなネット企業を中心に日本でも活用が始まりつつありますが、それ以外の一般的な企業においても、日本企業に多いとされるバッチ処理への適用が検討され始めています。劇的な生産性の向上につながる可能性が高い、このような新たなクラウドの活用法はさらなるクラウドの普及を後押しすることになるでしょう。

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